まるちゃんと記憶の香煙
「ブルーベリージャム」

まる栗メインへ戻る/記憶の香煙もくじ

果実の濃い味が鼻に抜ける。
さっぱりした淡い甘み、ブルーベリーのまろやかな酸味が広がる。

約10年ぶりに再会した西山さんにいただいた、手作りジャム。
この秋に、息子さんと二人で摘みに行ったそうだ。

10年前のあの秋、私もそこに居た。
車2台で連れて行ってもらった場所は、辺り一面ブルーベリーの茂みになっていて、透明な柔らかい日ざしがさしていた。
一つ一つふんわり包むようにして摘み取り続ける。

「ブルーベリーの枝ごと折ってはいけない・・・・・・そう書いておられたのを思い出すんですよ」
みきおさんが話し出した。
それは大切な人が亡くなって、初めての秋だった。

みなそれぞれ一緒に過ごした時間を想いながら、一つ一つ摘む。
どんな風に話し、笑い、喜びあったか。
そこにはもういない人を想い、ぽつり、ぽつり、大事にしていた心の風景が語られる。

星野さんには家族がいた。
西山さんのおうちで、初めて夕食をご馳走になった夜。
「すごくいい方たちなのよ」

本当にその通りだった。

一回りほども年下の奥様と「同級生ですか」と素で聞いてしまった私の言葉に、大喜びされていた。

ソファによじ登った息子さんを見て、「しょーま、みんなが注目してるぞ」とニコニコしながら抱き上げる。

ほっそり可愛い奥様は、ちょこまかと動き回る息子さんの世話をこまめにしながら、馬で山を走り回ったなんて話をされて、そのギャップにひっくり返った。

柔和な笑顔。
丁寧に静かに話す声。
いたずらっこのような目。
子供のように全身で笑う人だった。
楽しく、愉快な空気が、長い余韻となって残った。

あの時、哺乳瓶をくわえてオムツをかえてもらっていた息子さんは、すっかり背が伸び、元気そうな写真が冷蔵庫に貼られていた。
夏には毎年会いに来てくれると。

彼もブルーベリーが好きだろうか。
一粒一粒そっと摘むだろうか。
どうかどうか、無事に、元気に、育ってください。

お二人を、そして私の尊敬するあの方を、いつも見守っていてください。
どうか、どうか・・・


2007/1/13

前へ/次へ
まる栗メインへ戻る/記憶の香煙もくじ